- あおめがね
デススト感想(開発者目線編)
DEATHSTRANDINGの感想を書きます。
今回は「ゲーム作ったことある人」目線で描きます。
前は普通にユーザー目線で書きました。
※ネタバレ注意!
ゲームデザインの概要について
基本的にストレスにさらされながら移動するゲームです。
これは現代のゲームデザインとは逆行するといっても良い、非常に挑戦的な内容です。
というのも、近年は「バシューン!!」「ドカーン!!」みたいなゲームがスタンダードだと思います。特にスマブラ(シリーズ)や隻狼(フロムソフトウェア作品群)の推移を見ると顕著です。もちろんそういうゲームばかりではないですが、ゆっくりしたゲームはゆっくりでないと成り立たないゲーム(可愛い女の子をゆっくり眺めるゲームやリアルタイムな戦術の変化が大切なゲーム)がほとんどだと思います。
その中で発売された「徒歩で荷物を運ぶゲーム」。僕はマジで驚きました。
「ガチャで10万溶かすオタクや4フレームの反確で喧嘩するオタクはこのゲームで納得いくのか」
と。
※もちろん「徒歩で荷物を運ぶゲーム」というのはこのゲームの1側面を切り抜いたもので全く本質的ではないです。
ハッキリ言えばこのゲームは画面からの刺激でドーパミンが出ないんです。可愛いNPCがいたり、パチンコ要素があったり、ド派手な爆発があったり、そういう演出がほぼないです。
ではどうやってプレイヤーに快感を与えるかというと、「いいね!」がもらえるというものです。悪い言い方をすると承認欲求を満たすというものですね。
承認欲求を満たすのはSNSが主戦場ですから、その仕組みをプレイヤーの動機付けに結び付けるというのは思いつかないし、大金を注ぐゲーム開発では不安で出来ないです。そもそも「承認」といってもNPCからですしね(ストーリー上は)。
つまりこのゲームは
つらい道のりをゆっくり進んだ挙句、最後にはNPCが喜ぶだけ
のゲームなんです(ゲームデザインの概要としては)。でも一つのゲームコンテンツとしてこの上ない完成度を誇っています。結論から言えばNPCが喜ぶだけで十分いいゲームになるという訳ですね。
このゲームが如何に健康的で、ドーピングじみた演出に頼らずに出来上がっているかが伝わっていると嬉しいです。
ゲームデザインの細部について
ここからはこまか~~いゲームデザインについて話します。飛ばしていいですが、自分用メモとしてたくさん書きます。
足元の変化
このゲームは足元が非常に密に変化します。
というか、そもそも未整備の土地ってあのくらい勾配の多いものだと思います。
これは予想ですが、自由~に土地を作った後に詰まない程度にプレイヤー用の変化を施したんじゃないかなと。そうすることでプレイヤー達に「開拓」を体験させているのではないかと思います。
レベルデザイン、難易度設計的には荷物の方が的を得ていますね。「荷物が重いほどこけやすくなる」という馴染みの良い要素を追加する事で、一度に多くの「いいね!」を貰うのは大変、という設計になっています。
川
このゲーム、川が多くないですか?
というのもこのゲームの上で川の持つ意味は、「乗り物で入るとバッテリーが消耗する」「深い川に徒歩で入ると荷物ごと流される」と非常に大きいです。ハッキリ言うと不快要因です。
また「川の深さ」というのも厄介な要因で、確認するためにはオドラデグセンサーを使う必要があります。このセンサーはゲームを通して出番が少ないんですが、マップを見ただけではわからない現地の情報を見通すために非常に大切になります。
川を攻略するためにセンサーをきちんと使い、対策としてはしごや橋をきちんと用意するようになるわけです。で、荷物が増えてこけやすくなって…って考えることが増えていくわけですね。
このゲームの最序盤でのゲームの流れをガイドする役割、他のゲームで言えばチュートリアルボスみたいな立ち位置のギミックです。
景色
このゲームの移動だけで色々考える理由を↑で紹介しましたが、風景もめっちゃいいです。
レベルデザインとは違いますけどね!!
小規模な目標達成(丘を越えた、BT(後述)を退けた)のご褒美として景色が用意されています。この辺りも「風景が先にあって、それに合わせてBTを配置してるかなぁ」と考えていますがどうなんでしょうね。
プログラミングでも少し触れますが、描画距離の広さにはマジでビビりました。木が少ないから意外といけるのかな?って思いましたが、それにしてもあまりに描画が広くてほんと驚きました。
国道
国道は、簡単に言うとやりこみ要素です。↑で移動の楽しさを書きましたが、そのあたりを全部ぶっ飛ばして気持ちよくバイクでアクセル全開に出来るのが国道です。「シナリオクリアした人がいちいち未整備の山を往復しないように」って感じで用意されているのが国道です。
ゲームデザインとしての国道が「いいな!」って思ったのは、直線ではなかった所です。MGSVではマザーベース間がほぼ直線で「だりーーー」って思ったのは記憶に新しいですが、デスストではいい感じにカーブがかかっていて運転が気持ちいいですね。今まで苦労した道を見下ろしている感じもgoodです。
あと国道の中心を走っていると電力を消費しないっていうのもいい仕組みだと思います。ささやかなミニゲーム要素ですね。こういう所まで気配りの出来ているゲームは意外と珍しいと思います。
ただ国道にはカーブが異様な所あるんですよ、絶対「土地」をデザインしてから後付けで国道引いたでしょって感じです。
BT
BTとは、簡単に言えば悪霊です。BTには(恐らく)視覚がなく、プレイヤーの気配(立ちorしゃがみ、歩きorダッシュといった要素)で感知し、近づいてきます。
BTに捕まるとどうなるっていうのは長いので省略します。簡単に言うと荷物がボコボコにされます。
ここでしたい話は、「ゲーム的にBTいる?」って話です。 もちろん世界観としてBTは非常に大切なアクターです。ですが、はたしてあれは移動中のプレイヤーに現れる必要があったのでしょうか。
僕ははっきり言えば必要なかったと思います。 が、BTがプレイヤーにもたらす絶対的な要因があります。
それは
「ゲームのペースダウン」
です。
ある程度ゲームに慣れてしまうと大抵の敵や障害は何ともなくなって来るんですが、BTが出てきたときはゲームのペースダウンを余儀なくされます(専用の演出が入るなど)。
僕の好みではないですが、「苦労して、気を付けて、配送をした」という体験をさせるためにBTの群れをゆっくりと通り抜けさせる必要があったんでしょう。 またBTがいると面倒なので、人を殺して悪霊の原因にすることへの心理的抵抗を与えているのかもしれません。
ミュール
ミュールっていうのは、敵です。
ミュールがいる地域を無理に通り抜けようとすると攻撃されて、荷物を取られたりします。
またミュールを全滅させる事で資材を獲得し、国道を作ったりできます。
ミュールが結構厄介な相手で、障害物がほぼないので見つからずに進もうとするとめっちゃ時間かかるんですよね。とはいえBTでゲームのペースダウンは出来ているので、彼らには別の役割があります。
私見ですが、ミュールのゲーム的な役割はサンドバッグです。彼らを殺すとペナルティが多いですが、殴る分にはペナルティがないです。こう考えると殴られるために設置してあるような敵ですね。スルーもBTよりは簡単なので、彼らは不快要因ならぬ快要因なわけです。
デスストの格闘システム自体も非常に良く出来ていますが、細かいので省略します。「荷物を投げる」というアクションは汎用性も高く本当に良く出来ているなと思いました!
銃
「ゲームデザインの概要」では移動を軸にしたゲームであると言いました。
では、
そもそも銃いらなくね?
っていう疑問が起きます。
はい、いらないと思います。
というかペナルティの事を考えると、このゲーム(引いては小島監督作品)に殺傷武器は用意する必要すらありません。好き好んで使っている人もいると思いますが、ゲーム攻略自体には必要ないです。
ではなぜ用意しているかというと、プレイヤーに平和な選択を(自発的に)して欲しいからだと思います。このあたりは100%監督の趣味だと思うので、ゲームデザインとは少し軸がずれているかなとも思います。
BTやミュールに対する攻撃手段は必要ですが、それが銃や殺傷武器、凶器である必要はないです。ピコピコハンマーでも良い。
対クリフ
上で凶器は必要ないと書きましたが、じゃあ対クリフもいらなくね?って思ったと思います。
はい、いらないと思います。
少なくともゲームの本質とは離れたところにあるし、対クリフを実装するために作った様々なコストは別の使い道があったと思います。
とはいえ気持ちよいボス戦は必要です!ただそれは実際の戦争をベースにするのではなく、例えばレースゲームや対ヒッグスのような形式でも良かったのではないか。ということです。
でも銃もクリフも存在していて、かの小島監督がそうデザインしている理由は必ずあると思います。僕が考えるに、対クリフがあるのはそういうのが好きな人がいるからかなぁと、MGSのような小島監督を期待した人を裏切らないために用意したのかなぁと。まあ僕も「早く銃出てこないかな~」って思いながらプレイしてましたしね。
少しメタなことを考えると、大本のゲームプログラムがMGSVだと思います。クリフ実装に当たってモデリングやプランナーの仕事は多いですが、プログラミング自体の手間は(他と比べて)少なく済んだはずです。
まとめると、
特別大変でもないし、MGSのファンもプレイするだろうから、対クリフを用意しておこう。
ってことかなと考えてます。あとはディストピアが舞台で飽きやすいから、皆に馴染みのある舞台を混ぜておこう、とか?
対ヒッグス
対ヒッグス、僕はとっても好きです。
ただ正直、ゲームデザインとしてどう、というものは感じませんでした。
あれは、
「こういうボスを作ったぞ!さあプレイヤー諸君、倒してみろ!」
っていうボスではないです。
ゲームとしてのボスではなく、思想の対立や拳による会話といったものを体験させる仕組みですね。そのためにHPは多めに、難易度は低めに設定してあると思います。
特にヒッグスとの殴り合いの場面では、クウガの最終話や紅の豚のラストシーンを彷彿とさせるものがありました。
他オンライン要素
やまびこや「いいね!」、看板など、他者との距離感がとても絶妙な、丁度良いバランスで仕上がっていました。この距離間隔は本当に素晴らしかったです。
またこれのすごいところは、前例が(僕の知る限り)ないことです。
規模としてデバッグする事もほぼ不可能ななか、ここまで他者との距離間隔を絶妙に表現したことは本当に、すごいと思います。
また、「多くの人が通った部分の草や岩がなくなり、少しずつ道になる」という仕組みも本当に素晴らしかったです。リアルな道の成り立ちに通ずるところもあり、みんなで一つの作品を作っているような感覚があります。
褒めるしか出来てませんが笑、これについては天才の感性であると、そう評価する他ないです。
販売戦略について
ゲームデザインから見て、「販売戦略の事気にしてなさすぎだろ!」と思いました笑
とはいえ僕はトレーラーとかは一切見てなかったし、見る前から購入を考えていましたから、あんまり人の事は言えないんですが。
上で書いてきたとおり、「画面からドーパミンが得られない」「ゲームスピードが遅い」ですから、映像として映えさせるのは本当に大変だと思います。同じ理由で配信でも映えにくいので、昨今話題のユーチューバーとの親和性も低いです。
友達と一緒に進めるような要素もないので、友達と「一緒に買って対戦しようぜ!」みたいなことも、「Vtuberとフレ戦!」みたいなことも起きないです。最近売れたポケモンやスマブラとの差は感じますね。
SF作品や小島監督のファン、挑戦的なゲーマーは買うかな~と思います。それ以外の購入者は簡単には見込めないでしょう。というかそうでない人が買ったなら理由が知りたい。
別の視点で行くと、ノベライズやグッズ化とは相性が良いと思います。0から世界観まるごと作った人の特権ですね。とはいえノベライズはもうされているし、グッズについても監督がツイッターで呟いてました笑。コンテンツの成長方針としてはゲームの数を売るのではなく、派生作品や二次創作でコアなファンを作る。といった方向になるでしょう。
プログラミングについて
まず描画距離がおかしいです。何が要因なのかイマイチわかってないんですが、こんなに広い面積の描画があんなにきれいにできるわけなくないですか?
木や石、岩の細かい描画距離をきれいに分けて、プレイヤーが遠くまで見渡せる場所(山頂など)をピックアップして専用の仮モデルを作ってるのかなぁって思いました。
次に地面の凹凸についてです。恐らくですが、ベースはマイクラだと思います。大本の高低はマイクラのように設定して、そこの間がなだらかになるように専用のテクスチャを被せているのかなぁと予想しました。
というのも、地面の凹凸、種類の入れ替わりが本当に激しいんですよ。一粒一粒真面目に作ってたら2年じゃ足りないです。「大陸のデザイン」を丸々やる人がいるとして、それを「マイクラ化」→「なだらかにテクスチャ張り」くらいは自動化しないとえげつない工数になると思います。それでも説明がつかないシーンは多いですけどね…たぶんランダム生成した石オブジェクトを地面の上に配置あたりも自動化してるかなぁと…。
連続的に見える場面でも裏ではマス目のように処理している。っていうのは僕が良くやる手法なんです。効果的だし、センサーで見える画面からするとそうなっている公算は高いです。
ストーリーについて
僕には難解すぎて何も言えないです笑
オドラデグについてはカフカがベースっぽい?ですね?
また「ビーチ」は彼岸のメタファーって意見がありましたね
……もちろん深いことまでは考えずに、
「接触恐怖症のサムが人々を繋いで回るなんて!最後には接触恐怖症もなくなって感動的なストーリーだ」
「ママ―のストーリーはひどく残念だったけど、もしBTが現れる前だったらただ死んでいただけだったかもしれない」
「人類の絶滅は永遠に起きないとは言い切れない。でも、今を懸命に生きていきたい」
みたいに、100%までわからなくても沢山の感想、感情が沸き上がってきます。
それでも100%わかりたいって人は有識者が考察書くまで待ちましょう。僕は半年くらい待つ予定です。
総括
小島プロダクションの旗揚げ作品ということで、「小島監督ワールド」全開の渾身の出来になっていると感じました。「これこれ!こういうのが欲しかったんだよ!監督!」って感じです。これからも「小島監督が作った」という理由だけで全ゲーム買おうと思います。
また戦闘システムがしっかりしていたのも朗報です。次から出るゲームもきっと戦闘システムがあるでしょうし、なんならMGOのような作品も期待できますね。
反対にデススト2は出ない気がします。問題は解決しましたからね、残ってる謎もないし。
こんなに配送について掘り下げたゲームがこれっきりっていうのも残念ですけど、MGSVの頃からプログラミングの大本は同じなので大丈夫でしょう。次回作になったら荷物の重さは全部無視!ってことはならないと思います。
小島プロダクションは今回で自社開発、フィールドモデリング、トレーラー発表、広報と販売といった様々なハードルを越えました。今回のノウハウを経て次にどんなゲームをどんなクオリティで発表するのか、とても楽しみです。